振り返ってみてもーー

小説を書くことは、単なる物語の創作ではない。言葉を生み出し、読者の心に響かせる行為そのものだ。しかし、現代の文芸界は停滞し、多くの作家が食べていけない状況にある。なぜ小説は売れなくなったのか。固定観念に縛られた編集者の怠慢か、それとも時代の変化に対応できない作家の問題か――
沖田臥竜 2025.03.19
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 ずっと感じていたことがあった。あの頃はもっと書いていたとずっと感じていた。とにかくあの頃を超えなければと思っていた。だけど、今ならはっきりとわかる。今の方が書いていると――。

 小1からずっと塾に通わされていたが、勉強なんて一度もしたことがなかった。だったら何をしていたのだと言われそうだが、簡単である。邪魔をしていたのだ。

「なあ!怖い話してや!」

 これのみである。そのとき聞いた怖い話は、多分、全部、覚えている。オレは人と違うんだなーと思い出したのは、いつからだろうか。

 それまで、みんな惚(とぼ)けていると思っていたのだ。

「ほら、あのとき、ゆうてたやん!」

 というたびに、「覚えてへんわー」という言葉が相手から返ってくると、忘れたフリをしているんだと思っていた。

 どうやったらそんな簡単に、過去の記憶を忘れることができるのか理解できなかった。

 でも次第に分かったことがあった。惚けているのではなくて、本当に忘れているのだと。

 その反動だろうか。人と交わした会話を忘れないのだが、覚えないものは一切覚えない。

 道や人の顔、食べ物や建物の名前。何だったら、「インフォーマ2」の撮影でずっと滞在していたバンコクのホテル、空港の名前なんて覚えていないというよりも、始めから覚えなかった。情報をインプットしすぎるのが嫌なのだ。

 焼肉なんてよく行くが、塩タンとホルモン以外は一切、名前と部位が一致しない。

 カルビとロースの違いも知らない。

 なので、私は物語を作るとき、いつも1番得意な会話で勝負している。余計な描写なんて極力、書かない。

 これだけ本が売れない時代に、求められているのは何か。読みやすさである。なぜ面白いマンガは読まれるのか。それは読みやすいからだ。読みやすさとは、わかりやすさで、文字数ではない。

 昔は小説と言えば、8万〜10万文字であった。

 今の時代を考えてみて欲しい。なぜTikTokが流行っているのか。

 文芸界も嘆くばかりではなく、今の時代に沿った改革が必要なときに来ていると思う。固定観念をぶち破ることで、いつの時代も道というのは開けていくのだ。

 もっと読みたいと思われるくらいの文字数が、今の時代にコミットするということに、私は気がついている。

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続きは、2710文字あります。
  • 芥川賞作家がアルバイトをする時代!? 
  • 文芸界は時代に合わせた変化を諦めたのか
  • 自分自身に「よくやった」といえる生き方

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